歌い出してしばらくして、3人の声が混ざり合い、Gary Barlowの指が擦れる音をマイクが拾ったところでようやく、
「ああ、これはライブレコーディングなのだ」
と気づく。リップシンクなどではない、彼らのコーラステクニックの粋が詰まっている。
伝統に則ってboybandがacoustic ver.を録る場合、その目的の多くは、そのバンドの技量を示すためのものだったりするけど、ベテランのTTは、そんなのとっくに超越して、
あああ、こんな歌を歌わなければならないなんて
という、憂いに満ち満ちている。
俺の贔屓目かもしれないが、このコーラスはちょっと神懸かっていた。モノトーン調のシンプルな衣装も相まって、まるで3人の神がこの世を憂いて歌っているかのようだ。
一見、気だるげに、しかし集中力をマイクの一点に尖らせて、あたかも大事な蝋細工を作るような身振り手つきでトップノートを張るGaz。冒頭のソロは伝承歌のような節回し。ちょっとCelticでもある。
Howard Donaldのなんか凄いボロいベルトとか(笑)、Mark Owenのサラサラなブロンドヘアとかが、まるで夢の中みたいな空気感にアクセントを加える。
俺は過去に、Boyz II Menと比較して、TT3のコーラスはドレッシングコーラスだ、と書いた。3人の声が容易く聴き分けられる点は変わってないが、嬉しい方向へコーラスが進化している。
歌い出しは、上から、Gaz / Howard / Markで、Markの張りのあるバリトンがGazとHowardのテノールにだいぶ寄り添ってマイルドになっている。これ、近年のMarkの歌唱力が格段に上がった故だよな。
かと思うと、いつもはふんわり気味のHowardの声のタッチが、時折、シャープな輪郭線でGazの旋律を厚く縁取っていて、気づいた時には思わず「おおお!」と声が出てしまった。で、歌がサビへと進み、Gazを飛び越えてHowardのファルセットが登場!ポッケに手ぇ突っ込んだまま、なんでこんな超絶技巧が繰り出せるのだろう。まさに神懸かり。
もちろん、エコー処理などのpost-productionもふんだんに施された音源ではあろうが*1、シンプルな絵面の割にかなり力が入ったMVであることは間違いない。そして、
また1つ、世界の導火線に火が点いた。
*1:その割にMike Stevens御大のguitarの(ほんのちょっとの)ミスタッチはそのままになっている